以前こんな記事を書いた。
上記でかなり反響をもらったので、とりあえず最後まで読むことにした。
断っておくが、俺自身は「鬼滅」に1mmも興味はない。
ただ批評を書くうえの心構えとして、全話に目を通すのが自分なりの筋だと思っているというだけのこと。
さてこの度、20巻を読み終えたのでレビューしようと思う。
結論からいえば、過去一よかった。
逆になぜこれを今まで出してこなかった?と不思議に思うほどである。
ネタバレあり
まだ読んでない方は、自己責任でよろしく。
- 作者:吾峠呼世晴
- 出版社:集英社
- 掲載誌:週刊少年ジャンプ
- 発売日:2020-05-13
- 完結:23巻
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目次
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神童の弟・継国縁壱と秀才の兄・継国巌勝の超えられない壁
なんといっても20巻最大の見所は弟「縁壱」と兄「黒死牟=巌勝」の関係性が明らかになったことだ。
縁壱とは?
数ある呼吸法を普及させた鬼殺隊史上、最強の男
黒死牟(巌勝)とは?
上弦の壱の鬼、敵のNo.2
いや冗談でもなんでもなく、19巻まで読んできて、鬼側も人間側の話も一度として共感できたことはなかった…。
しかし本巻で、初めて共感できる話が出てきたのだ。
大正時代から遡ること400年前、弟:縁壱と兄:巌勝は双子として生を受ける。
当時、双子は跡目争いの原因になるため、よく思われていなかった。
そのため弟である縁壱を殺そうとする父親。
それに母親が猛反対したことにより、継国家で10歳まで面倒を見たのち、寺に出家させることになった。
それでも二人の待遇は天と地……。
兄「巌勝」は、立派な羽織を纏い、良質な食事、一室が与えられ、幼少より剣技を叩き込まれた。
弟「縁壱」は、小汚い長着、粗餐、三畳の部屋で育てられ、7歳まで笑うこともなく口もきかなかった。
ある日、兄がいつものように稽古をしていると気配もなく木陰に弟が立っている。
聞けば「自分も侍になりたい、剣を教えてほしい」と言うのだ。兄を指南していた者が口頭で、持ち方、構え方を教えいざ打ち込みをやってみると……。
兄が一撃も入れられなかった者を、初めて剣を握った弟が倒してしまったのである。
兄も決して、弱くはない。むしろ才覚はある方だ。しかし、神童の前では努力や鍛錬は無に帰した。
さらに弟に悪意はなく、ただただ兄を尊敬している優しい気質がこれまた残酷なのだ。
「バウンサー」という漫画で、こんな話が出てくる。
天才とは、ある種の病理(症状に関する理論)であり、常人からすれば「優害者」である。
どれだけ修練を重ねてもとうてい追いつけない能力を生まれつき持っている究極の反則者だ。
突如姿を消した縁壱
ある日の夜更け、兄のもとへ母親が死んだと報告にきた縁壱。
そして、自分が寺へ発つと告げ、忽然と姿を消してしまった……。
桁違いの強さを秘めていた縁壱の存在により、家を継ぐ立場が逆転してしまった兄:巌勝。
立派な侍になるためだけに、剣の道を志してきた者にとって、これ以上の屈辱はなかった…。
しかしそれから十数年、結局弟は見つからず、遺恨も忘れさり、妻子を持ち兄は平穏な日々を送っていた。
ところが運命は再び兄弟を巡り合わせる。
配下と野営中、鬼に襲われた巌勝を救ったのが、縁壱だったのだ……。
この時さらに人外の強さになってて、秘めていた嫉妬と憎悪を再び彷彿させてしまう…。
縁壱が肌身離さず持っていた物と黒死牟の涙
縁壱の最後は老衰死である。
それも鬼になった弟:黒死牟と対峙中にだ。
抜刀の刹那、黒死牟は首を斬られ、次の一撃で殺されると確信していた。
しかし次撃はこなかった……。
縁壱が立ったまま逝ってしまったからだ。
結局誰一人、あの無惨でさえかすり傷一つ付けることもできなかったのである。
あまりの悔しさに、死に体をぶった斬る黒死牟。
すると、懐から見覚えのある横笛がこぼれ落ちる。
それはまだ黒死牟が人間だったころ、巌勝だったころ、兄だったころ、差別されていた弟に手作りした笛だった。
鬼殺隊史上、最強の男「縁壱」が最後まで大切にしていたのは兄「巌勝」の優しさだったのである。
弟より強くなりたいがため、鬼に魂を売り、6つ目の化物となってしまった黒死牟の目から自然と涙がこぼれ落ちた……。
これはキツイよな。鬼になってパワーアップしたのに全然勝てねーわ、大昔にあげたガラクタ大切にしてるわで、己の小ささを叩きつけられた感じ。
しかも諭されたわけでもなく、優しさの暴力だから相手に落ち度がない。
元侍にとって死よりも辛い生き恥さらして、それでも死ねない身体って地獄だろっ。
すべてを捨ててもなお何者にもなれなかった黒死牟の最期
何かを得るためには、何かを捨てなければいけない。
凡人とはそういうものである。
再会を果たしたのち「縁壱」に剣を習うため家と妻子を捨て、鬼殺隊に入隊。
弟を超えることだけを望み鍛錬を続けた。
そんな嫉妬心と憎悪を無惨に利用されてしまったのだ。
永遠の命を手に入れ技を極めないか?と持ちかけられ闇に堕ちてしまった。
これで本当に人間であることも、子孫を残すことも、侍としての誇りもすべて捨てたことになる。
それから数百年の鍛錬を重ねてもなお、「縁壱」の域には達せず、とうとうその夢は叶わなかった……。
かつてベジータがバビディに邪心を利用されちゃったの思い出したな。
いい勝負のライバルは互いにプラスになるけど、絶対に覆らないライバルが横にいると闇堕ちしやすいのわかるなぁ。
その点、アイシールド21の金剛兄弟「雲水」は、人格者で感動したのよね。
弟のために頭下げて回って、決して努力を怠らない姿勢に惚れたわ。
夢叶わず死ぬことは不幸なのだろうか?
黒死牟は、最期に自分はなんの為に生まれてきたのだと縁壱に問い、死んでいく。
多くの人は、人生の中で目的を見つけることもなく、否意識すらせず死んでいくはずだ。
大それた夢を見ればバカにされることもあるだろう。
夢をみた結果、恥をかき、何もなし得ず、周囲に笑われるかもしれない。
しかし、すべてを捨ててまで叶えたい目的があることは幸せではないだろうか?
そのプロセスに関係のない人々を巻き込んでしまったことだけが、後悔の念であり、数百年もかけて追い続けた夢に価値がないとは思わない。
清廉潔白に生きていくなど、持っている者の詭弁だ。
持たざる者は嫉妬心や怒りが原動力になるのもまた事実。
己の無力さや無能さを誰よりも痛感し、悔しい思いを誰よりもしている……。
だからこそ、人の気持ちを汲み取ることができるようになると俺は思う。
夢を追う者を冷笑するのは、誰でもできるんだよな。
俺はそうならないようにいたいけどね。
強者の優しさは時として刃となる
「縁壱」は望んで最強になったわけではない、たまたま最強の才を持って生まれてきただけである。
だからこそ尊敬する兄に対し「この国で二番目に強い侍になります」といったのだ。
自分の方が技量は遥か上であっても、兄の侍としての生き様に憧れていた。
しかし、強者の優しさや純粋さは、時として刃にも皮肉にもなってしまうのは心に留めておくべきだろう。
頭では悪意はないことがわかっていても「はい、そうですか」と素直に聞き入れることができないのが人間というものだ。
こういった点からも、やはり縁壱は人の気持ちを汲み取るのが苦手だったと思う。
試合でもなんでもそうだが、基本的に勝者が敗者にかけてやれる言葉などないのである。
ここのすれ違いさえなければ、巌勝にもまた違った未来があったかもしれないなと思った。
いつになく吾峠節が冴えていた
もともと吾峠先生の言葉選びは好みである。
鬼滅の刃は少年誌なので、その本領は発揮されていないが「短編集」は、大人向けに作ってあるのでオススメだ。
20巻は、この吾峠節が炸裂した。
特によかったのはここ。
人を妬んだことねぇとかキレイゴト言ってる奴は、仏の生まれ変わりレベルのいい奴、本物の天才を知らないアホ、いい人キャラ作ってるだけの薄っぺら人間のどれかだろっ。
だからと言って捻くれて何もしない奴は好きじゃねぇ。
強大な壁(仕事)が現れた時、ソイツをどう打ち崩すか?(どう達成するか?)
弱者(個人)が強者(大企業)に挑むために必要な心構えとは何か?
こういったマインドを身に付けるために、ジャンプのストーリーは存在していたんだと大人になった今は思う。
どんなに陽気な主人公でも絶望し、負けを知り悔し涙を流す、時には心を折られ闇堕ちする…そうした葛藤に感化され、キツい時でも踏ん張ろうと思えるのではないだろうか。
だからこそ、ここまでのストーリーにはそうした描写が圧倒的に少なく共感できなかったし、これを読んでも何も得るものがないなと思ってしまったんだよな。
その他、印象に残ったセリフはこちら。
望まぬ邂逅
意味:思いがけなく会うこと。
幼少の砌
意味:幼少の頃
胃の腑を灼いた
意味:胃袋を灼いた
曲なりにも物書きをしていると、漫画家や作家の言葉遊び(選び)にはしょっちゅう妬いてるぜ。
ここでこの言葉を持ってくるのかよ〜。くぅ〜みたいな。
もう一人言葉遊びの天才を挙げるなら「西尾維新」先生だ。
とくに化物語の遊び方は秀逸、一度でいいから脳内を覗きみて見たいものである。
ちなみにこれ、俺のマインド部分。
能動的孤独っていいよね。
すぐ他人に流されちゃう人
自己啓発本をたくさん読んじゃう人
意識高い系YouTuberに感化されちゃう人
で結局何も行動しない人は「化物語」オススメ。
ただクセ強すぎて、好き嫌いハッキリ分かれる文体だけど。
自己啓発本は「7つの習慣」だけ、読んどけばOK。
世の中にあるその他の自己啓発系は、これを薄〜く引き伸ばしただけ。
結論:20巻は兄弟の機微がよく描かれており鬼滅史上いちばん良い巻
以上が鬼滅の刃20巻を読んでみたレビューだ。
やっぱ1巻分くらい使って、一人のキャラを掘り下げた方が面白くなるな。
付け加えるなら、恒例のクソみたいなギャグ描写が1ページ目以外になかったので、それも相まって一番良い巻だった。
本記事で紹介した箇所以外にもかなり重要な局面はあったけど、その辺の流れは相変わらず???だったので省いている。
まぁ今回の記事を読んでもらえばわかると思うが、俺は鬼滅アンチでもなんでもなく、面白いと思えばそう書くし、つまらなければつまらないと書くだけということだ。
批評を書いている以上、最後まで単行本は買うので、今後も世間や他人に流されず客観的にレビューしていければと思っている。
それでは。
- 作者:吾峠呼世晴
- 出版社:集英社
- 掲載誌:週刊少年ジャンプ
- 発売日:2020-05-13
- 完結:23巻
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コメント一覧 (7件)
どうも、お久しぶりです。やっとここまで読み進めました、辛かったぁぁぁ。
今回、マニオさんのおっしゃられた通り、一番素晴らしい出来栄えだったと思います。
私自身、弟と比較されることが多いのでそこが感情移入できたのかもしれません。
ただ、それ故にヨリイチがミチカツを尊敬している理由が弱いと思いました。
兄だから~、笛くれたから~、とかじゃない納得できる理由が。
今回はミチカツ視点の物語だったので、今後語られたりするのかもしれませんが。
強化形態を出したのに、突っ立ったままで何もしなかったのには、失笑しました。
21巻以降も、読み終わったらコメントしに来ます。
マルゲリータ様
お久しぶりです。
「時間かかりすぎー」とツッコミたいところですが、鬼滅より面白い作品は世の中に五万とありますからね。
有意義な時間を過ごしたいのであれば、コレ以降はまったくおすすめしません。笑
私も巌勝には共感できましたし、嫉妬や羨望といった感情は一番人間らしさがでるため、大抵どの作品でも外さないですよね。
一方で、この先は可処分時間の無駄ですが、マルゲリータ様はどことなく私と近い感性を感じるため、ぜひ21巻の縁壱も読んでいただきたい気持ちもあります。
20巻からスプラッシュマウンテン並の急降下はなかなかのものですから。笑
もしよければTwitterでも良いですよ。
鬼滅に限らず、好きな作品や最近読んだものの話でも。
返信ありがとうございます。
読むのに時間が掛かったのは、お恥ずかしいことですが私自身ケチなので、
批評するためだけに好きでもない作品の売り上げに、貢献したくないな~って
かっこ悪い気持ちがありまして。最近、学校の図書室に置いてあることを知ったので
サクサク読めるようになったんですよ。大変お待たせいたしました。
鬼滅の刃は、最終巻まで読むつもりです。ま!ここまで読みましたしね。
ツイッターはやってないし、やるつもりもないので、この場でのコメントにしときます。
マルゲリータ様
いやそれが正解ですよ。
金は好きなもんに使うものですから。
おぉ学生さんでしたか。
それは失礼。
ではでは、またなにかあれば、こちらにコメントしてください。
この黒死牟周辺は背景、心情など全てに置いて鬼滅の中では1番良いと思ってます
鬼滅で称賛に値すると言える場面
嫉妬と愛情の2つのせめぎ合いが描かれていて1番しっくりきます
それと反比例するかのように本誌での無惨戦は心折れそうな出来に思いましたけど
ナシオ様
おぉーナカーマ。
私も20巻が1番良かった、というか20巻以外は、、、です。
単行本勢なので、まだ追えてないんですが無惨戦、酷いみたいっすね。
21巻のレビューも近々アップ予定なので、何かあればまたコメント下さいませ〜。
マニオさんと同じく、きめつにあまり面白さを感じていない人間ですが、黒死牟さんのエピソードだけは本当に悲しくて虚しくて大好きです‼︎
兄弟のすれ違いが、本当に切なくて最高です‼︎