1万冊近くマンガを読んでいると「つまらん、飽きた、くだらねぇ」など、一時的な感情により作品から離れることはよくある。
ただしそのどれもが、次の日には忘れる程度であり、嫌悪感があとを引くことはまずない。
今回紹介する「溺れるナイフ」は、俺の中で封印した作品であり、数年前に読んだとき「こんなクソ漫画、二度と読みたくねぇ」と思わされた例外中の例外だ。
ところどころ記憶が曖昧かもしれないが、せっかくなので当時の気持ちを書き残しておこうと思う。
作者 | ジョージ朝倉 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 別冊フレンド |
発売日 | 2005年3月31日 |
完結 | 17巻 |
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目次
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溺れるナイフを二度と読みたくない理由
一言でいえば「ヒロインの夏芽が死ぬほど気にくわねぇ」から。
コイツの行動すべてが気分わりぃ。
基本的に主人公とヒロインだけが幸せになればいいって感じで、周りの人間は迷惑極まりない。
2人で勝手に盛り上がる分には構わないんだけど、いちいち誰かしらを傷つけながら進行していくから読んでいてイライラしてくる。
13巻までは普通におもしろかったが、14巻以降の展開に異様な気持ち悪さを覚え、とにかく読後感が悪い。
友情も愛情も根こそぎぶっ壊す夏芽の軽率な行動は、俺が一番キライな人間像をよく描いている。
三角関係の大友少年があまりにも報われなくて、14巻以降のセリフはすべて胸糞悪かった記憶しかない…。
ということで当記事では物語全体ではなく、ヒロイン:夏芽、主人公:航一郎、その友人:大友の三角関係をメインに自分の中の毒を書かせてもらう。
夏芽と航一朗の出会い
父親の都合で、東京から和歌山県のど田舎に引っ越してきたヒロイン夏芽。
母譲りの恵まれた容姿を認められ、小学生のころからモデルをしていた。
この小さな小さな町で、悪童「航一朗」と出会う。
少年は大地主の跡取りのため、家族の過剰な期待と周囲の大人から特別扱いされた環境で育つ。
その憎たらしい態度とは裏腹に、初めてみた時からどこか他と違う魅力を感じた夏芽。
一方の夏芽も、田舎に舞い降りた天使であり、お洒落な服、長い手足、整った顔立ちは早熟な美少女だった。
互いに浮いた者同士、それでも常に先を歩く航一朗にいつしか「彼に勝ちたい、対等になりたい、認めてもらいたい」と思いを馳せるようになっていく。
中学編
桜が散り、生暖かい風が吹く季節、彼らは中学生になった。
入学してまもなく「航一朗」を超えるために撮影した写真集ができあがる。
急速に距離を縮める2人…念願叶い恋仲になった。
初めての彼氏に舞い上がる夏芽をよそに、航一朗の態度はいつもと変わらない…。
近づけば離れ、離れれば近づく…すれ違いの日々が続く…。
夏芽が航一朗を特別に感じたように、彼もまた彼女の異様な輝きに惹かれていたのだ。
それは単に肉の造形美ではなく、オーラのような言葉にできない魅力だった。
何でも簡単に手にしてきた航一朗が、初めて強く欲しいと望むくらいに…。
だが付き合ってみれば「コウちゃん、コウちゃん、コウちゃん…」と独占欲と自己顕示の狭間に揺れ動く普通の女の子になってしまった彼女に、航一朗は違和感を覚えてしまう。
「俺はよぉ、写真集のころのおまえの眼が、挑戦されとるようでおもしろかったんじゃがのう」
2人がこんな日々を積み重ねるなか、航一朗と一番仲良しだった「大友」は友達を取られたようなジェラシーを感じていた。
火付け祭りレイプ未遂事件
この日は毎年恒例の火付け祭り、航一朗の活躍を楽しみに気合を入れて浴衣を着込む。
同刻、旅行客のフリをし、夏芽を付け狙ってきたストーカーに拉致られてしまう。
顔をダッシュボードに叩きつけられ、引っ叩かれ、唇を舐め回され、身体中をベタベタと触れられる。
左脚は骨折し、右耳の聴力を失うほど傷を負わされた。
そのまま乱暴されそうになったところで、航一朗が登場。
だが、中1と大人ではあまりにも馬力が違い、いかな航一朗でもボコボコにされてしまう。
何もできずに首を絞められ、涙を流しながら目の前の男に恐怖を覚える。
間一髪、町の大人たちが駆けつけ、犯人は取り押さえられた。
しかし、この事件が2人に与えた影響は大きく、航一朗を勝手に神様(ヒーロー)だと思っていた夏芽は「私を助けてくれなかった」と夢から覚めたような感覚を味わう。
また男に暴行された傷は、彼女の心に深く突き刺さり、男性恐怖症になってしまった。
感のいい航一郎は、夏芽の気持ちの変化に気づき2人は自然消滅。
別れてからは何かにとりつかれたように暴れまわる航一朗を、誰も止めることはできなかった…。
大友の部活仲間にまで手を挙げるようになり、これを機に友人たちとも疎遠になってしまう。
そして季節は過ぎ去り、彼らは3年生になった…。
大友と夏芽が急接近
修学旅行…大友と夏芽の距離がグッと縮まる。
しかし、どうしても拭いきれない航一朗の影…。
ドロドロに染まりきった黒色の夏芽には、何色にも染まらない大友は、太陽のようだった。
一歩また一歩と友情とは違う感情が芽生え始める。
航一朗、コウイチロウ、コウちゃん、コウ、こういちろう、コウくん、コウイチくん、イチロウくん、長谷川……ォォトモ。
2人の男子の間に揺れ動き、夏芽は困惑していた…。
そんなある日、航一郎を救い出すチャンスが訪れる。
彼ごと東京に連れだそうとするも、ここで初めて自分こそが航一郎を追い詰めていたと知った。
航一朗は、周囲の勝手な期待に辟易し、今のラクな生活に逃げていたのだ。
そして「二度と関わるな」と突き放されてしまう。
ついに夏芽の気持ちに変化が…
大友に対し、特別な感情を抱く一方。
航一郎に拒絶されたことが引っかかっている夏芽。
しかし思い返してみれば、落ち込んでいる時、そこにはいつも大友の笑顔があった。
もし過去をやり直せるなら「大友と一緒にいたい」とようやく自分の気持ちに折り合いをつける。
大友の告白が最高すぎる
好きじゃ
目の前にいる望月が好きじゃ
もしもなんか
気になることあるんならよ
どうしても気になる言うんならよ
俺が忘れさせちゃるけぇ
いや〜いいね。
特に「目の前にいる」ってのが最高。
航一郎のことを受け入れた上で「お前が好き」ってのがたまらん。
個人的には、強姦未遂のことも知った上で、これだったらより良かったけどね。
ということで、ここまでは「溺れるナイフ」を知らない方向けに、3人の関係性を軽くおさらいしたが、ここからは知っているていで書いていく。
読んだことない人は、想像しながら読み進めてくれ。
大友と夏芽が付き合った
いざ一緒になってみれば、そら仲が良いこと良いこと。
大友にしてみれば、普通に芸能人と付き合っているわけで、夢と現実の堺もおかしくなるわけよ。
一方の夏芽も恋愛バカだから、変に気取らず「大友のことめっちゃ好き好き好き」ってのが伝わってくる初々しさ。
- ドラマの撮影で地元をしばらく離れることになっても、ゴネもせず、一番の理解者として支えた。
- 強姦未遂の恐怖症により、キスより先に進めない夏芽に「無理強い」をしたことは一度もない。
- 日に日に芸能人化していく夏芽に、本当なら嫉妬や焦りを感じてもいいのに「ぶち応援しちょるけぇよ」といつも笑顔で迎えた。
- 航一郎にもハッキリと付き合っていることを告げ、友達にも筋を通している。
- 夏芽を取り巻く大人から圧力かけられた時は、気持ちに折り合いつけて身を引く覚悟もした。
こうした大友の底抜けの優しさが、夏芽の世界を少しずつ塗り替えていく。
いや〜こんなカッコいい奴なかなかいないぜ?
だいたい少女漫画のイケメン像って、キザっぽさどガキ臭さの使い分けが定番で、男からすると「こんな奴いねぇよ」って思うことがほとんど。
花男の花沢類とか君届の風早とかストロボの一ノ瀬とかさ。
でも大友は普通に男としてカッコいいんだよな。
だからこそ応援したくなるし、幸せを願ってしまう俺がいる。
航一郎と夏芽のいびつな関係
ある日、山奥のボロ小屋で傷だらけになった航一郎を見つけた夏芽。
「コウちゃんを助けなきゃ」彼女の心には、まだそんな気持ちが残っていた。
大友からの着信をスルーし、急いで救急品を取りに戻る。
この時初めて、事件以降、航一郎もまた昔の自分を取り戻そうと、一人抗っていることを知ってしまう。
夏芽は大友に救い出してもらったが、誰にも頼れない(理解者がいない)航一郎に負い目を感じてしまったのだ。
ただ航一郎は
今日のことは絶対言うな、俺は大友がすきじゃけぇの、おまえが自分の気分を軽くするためにいらんこと言うてよ、不用意に大友悲しませたりしたらゆるせん、おまえ二度とここには来るな
と伝え、それを最後に彼らの中学生活は終わった…。
高校編
ここまでは十分楽しませてもらったが、問題の14巻…。
これ以降は胸糞でしかなく、今まで積み上げてきたものは何だったのかと、ページを捲る手は重く、嫌悪と激情の繰り返しだ。
二度と来るなと言われた夏芽は、くだらないほんのちっぽけなプライドのために、またあの小屋に行ってしまう。
そこにいた航一郎は、数ヶ月前に会ったコウちゃんではなく、完全に闇堕ちしたドクズ野郎に成り下がっていた。
夏芽を襲い、動画を撮影、それを大友へチンコロする材料としていいように使われてしまう。
その日から事あるごとに呼び出され、航一郎の望むままに身を委ねていく。
うわ〜気持ちわりーなんだコイツら。
こういう展開に持っていくなら、保険で「俺は大友のこと好きじゃけぇ」とかいらねぇだろっ。
最初からクズはクズとして書いとけよっ。
ただただ過去にとらわれて、一人でくすぶってるだけの痛い奴じゃねーか。
なーにがこの町の王様だよ、自己解決できないなら、最初から誰かに頼れや。
なんでコイツの弱さに大友が巻き込まれなきゃなんねーのよ。
それと夏芽、お前も「わたしのうしろめたさ」とか安っすい自己陶酔入ってんじゃねぇ。
大友に相談しろよ、したら航一朗をぶん殴ってそこから救い出してくれたろうがよ。
大友の笑顔を守るため、動画を送られたくないって責任転嫁すんなっ。
奴隷以外の選択肢もある中で、自ら望んで会いに行ってるんじゃねぇか。
結局、この2人は愛情ではなく「共依存」で繋がっているだけって確信したら、急に気持ち悪くなってきた。
まぁ高校生だし気持ちの移り変わりなんてよくあるし、浮気や二股描写はよくあること。
ただなんつうんだろうな、とにかく気持ちわりーんだよ、航一郎と夏芽のベチョベチョした関係性が。
大友との別れ
この間、大友は何一つ知らない。
そこは腐っても女優、本人の前では感づかれないようになんとか振る舞っていた。
そして、とうとうXデーが訪れてしまう。
夏芽「別れよ」
大友「え?今なん…別れよう言うた?」
夏芽「ゴメン、仕事に集中したくて、逃げ道なくさないと…」
目を合わせず、下を向きながらそう話す彼女を見て、大友にある疑念が浮かぶ。
大友「コウ、け?」
夏芽「…」
大友「ウソじゃろ?なんねいつから…」
大友「ちゃうか、俺とおった時間、ずっとコウがおったんじゃのう」
夏芽は泣きながら首を横に振る…。
大友「泣きたいのはこっちじゃ、ズルいわ」
泣き崩れる彼女をいつものように抱き寄せる右手をグッと抑え、
大友「もうええわ、これで気ィラクになったじゃろ?俺はようおまえが思うちょるよりよっぽど大丈夫じゃあないど」
はい、これで終わり。
2人の約2年間はこれだけ。
女優さんよぉ、会って直接言わなきゃなんてキサマのクソエゴを通すなら、最後まで「仕事に集中したい」で突っぱねてくれねぇかな。
わざわざ別れ際に航一郎を匂わすって、お前バカなの?
そんなクソ安い涙いくら見せられても、俺は1mmも同情できねぇんだけど?
そうやって顔に出ちまうなら、ピーピー泣いて大友の優しさに最後まで甘えちまうなら、いっそメールか電話で終わらせてやれよっ。
女優って設定全然活かせてねぇじゃん。
お前のエゴのせいで、大友は「最後まで航一郎に勝てなかった」っていらない十字架を勝手に背負わされて生きてかなきゃなんねぇんだぞ、マジで鬼畜だよあんた。
で、このあと東京に引っ越すことになって、女子会で大友との別れ話に軽く触れるんだけど、ギャグみたいな描写でよけいに腹立つわけ。
なにヘラヘラしてんだお前?「ハハハ…」じゃねぇよ。
お前らの2年間ってこんなもんだったのかよってね。
それに比べて、大友の去り際はどうよ?
カッコよすぎてこっちが泣けてくるわ。
そんな物分りよくなくていいんだよ。
もっと抗え、カッコつけるな、理性捨てろっ。
読者がそう思いたくなるほど、大友の出来が良すぎて、夏芽の愚かさ、醜さ、薄汚さ、狡賢さ、嫌らしさ、がより際立ってしまう別れだった。
ちなみに、実写映画ではくだらねぇ感じに仕上がっているので、漫画の大友をみてほしい。
結論:溺れるナイフは一度も読まぬ馬鹿、二度読む馬鹿な作品
以上が溺れるナイフの三角関係は、クッソ気持ち悪かったという話だ。
13巻までは普通に面白いんだけどね、14巻以降は厳しい。
本当に一度読めば十分であり、二度と読みたくない作品である。
他の選択肢がある中で、わざわざ人の気持ちを踏みにじる行動をとるって、不快感しかねぇんだわ。
設定は10代の少年少女だとしても、そこに作者の意図がある以上、最後まで女性の狡猾さを感じてしまい、気持ちの悪い部分を拭えなかった…。
作品全体を通すともうちょい複雑な人間関係だから、また違った視点も楽しめると思う。
未読の方は一度だけ読んでみてはいかがだろうか。
作者 | ジョージ朝倉 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 別冊フレンド |
発売日 | 2005年3月31日 |
完結 | 17巻 |
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