「ゲラゲラゲラ、やっぱジャンプおもしれぇ〜」
今より20年以上前、毎週月曜日になると響き渡る中学校の教室だ。
ジャンプはたしかに面白い。
当時は「ONEPIECE・NARUTO・BLEACH」の三本柱を始め、多くのヒット作を生み出し、第二次ジャンプ黄金期と呼ばれていた時代だ。
しかし、厨二病まっさかりの俺は、、、
「ケッ漫画読んでゲラゲラ笑いやがって、ダセェ奴らだな、漫画は自分との対話だ、静かに読めねぇのかこのエテ公どもがっ」
などと扇形定規では測れないほど、ひん曲がった性格をしており、内心同級生を見下していた。
申し遅れたが、俺の名は「鉄仮面」
人前で笑うことを忘れ、いつしか変なあだ名がつけられてしまった少年だ。
そんな痛すぎる学生生活を送ってきた少年が「香取センパイ」と出会い、初めて”漫画を読んで笑う“ことができた経験と”当作品の面白さ“をかい摘んで紹介していく。
- 作者:秋好賢一
- 出版社:秋田書店
- 掲載誌:
月刊少年チャンピオン
- 発売日:2002-03-31
- 完結:11巻
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目次
香取センパイとの出会い
中学を卒業し、高校に入っても人前で笑うのは苦手だった。
それでも「別にいいさ、笑わなくたって別に困らねぇし」そう自分に言い聞かせ、少年は新しい漫画を物色しにTSUTAYAへ足を運ぶ。
そんなある日、山積みの本棚から一つの作品に目が留まる。
派手なカラーリング、惹きつけられるタイトル、くだらなそうな作画…。
カバーの裏面を読むと、何やらヤンキー漫画のようだ。
もともと「BE-BOP-HIGHSCHOOL・湘南爆走族・クローズ・フジケン」などを読んでいたため、ヤンキー漫画に特に抵抗はなく、とりあえず1巻だけ購入した。
香取センパイは面白い
©香取センパイ|1巻
家に帰ってさっそく読み始めると、、、
「ブッギャハッウヘッボホッグフッ」
笑い声というにはあまりにもブサイクな擬音のオンパレードを吹き出した。
ここが家で本当に良かった、外で読んでいたら相当やばい奴だと思われていただろう。
この時初めて「漫画を読んで笑う」童貞を捨てたのだ。
しかも初体験で、カチンコチンの鉄仮面が砕け散ったのである。
すぐに既刊(確か2巻?)まで買いに行った。
「こんなに面白い漫画がこの世にあったのか」という衝撃とこの作品を世に出してくれた秋好先生に心より感謝したのは今でも覚えている。
1巻で一番好きなエピソードは
学園祭で「りんご飴」は普通すぎるから「ピーマン飴」にしようと考案し、一個も売れずに大赤字を出した話だ。
いやもう、ピーマンって発想が天才すぎて、笑いが止まらない。
しかもこれ、同学年のモブが後輩向けて回想で語るシーンである。
1万冊近く漫画を読んできたが、モブの回想でこんなに笑った作品には出会ったことがない。
それほどに香取センパイは面白いのである。
香取センパイはすげぇ
©香取センパイ|3巻
トラブルメーカーの香取は、とにかく喧嘩に巻き込まれる。
この日も他校と乱戦中、一年3トップの一人「地獄の番犬」こと伴 健吾が香取センパイの印象を的確に表している。
「サダオ…中学ん時からやりあってたが、あそこまでタフじゃなかった…」
「あの金髪、空手か?それに場数踏んでるな…強えぞ!!」
「そーなんだ、問題はこいつだ、金髪は強え…しかしこいつは…」
すげえ!!
キャラクターを一言で表す言葉はさまざまあるだろう。
かっこいい
強い
好き
イカれてる
かわいい
怖い
イケてる
が、香取にはどれも当てはまらない。
「香取センパイ」を一言で表すならやはり
すげぇ!!
なのである。
この男を語るのに、流麗な語彙や洒落の効いた言い回しは必要ない。
とにかく
すげぇ!!
のである。
香取センパイはひどい
©香取センパイ|3巻
ブーメランパンツ姿で突然屋上に現れた香取。
聞けば、制服がなくなったとのこと。
身に覚えのないことで、理不尽にキレられ、ぶん殴られ、正座させられる後輩3人衆。
当然ヤンチャな「サダオ」は、ざけんなっと突っかかる。
ここで香取信者の山田は「どっちだ、そんな悲しいことをした奴はーーー!!」と抜け駆けするも「うっせー!!」と裏拳を喰らう。
普段から香取を崇拝している山田をである。
しかし、この傍若無人っぷりがなぜかクセになるのだ。
リアルでは絶対に関わりたくないタイプの先輩なのに、性格が良いか悪いかの二択なら間違いなく後者なのに、なぜこれほど面白く描けるのか?
それこそが「香取センパイ」最大のミステリーであり、秋好先生の天才性を示している。
香取センパイはカッコいい
©香取センパイ|2巻
9.5割はふざけている香取だが、たまに本当にごくたま〜に覗かせるまともなシーンは、落差により非常にカッコよく映る。
心理学でいう「対比効果」だ。
香取の後輩パシリ1号「ガチャピン」は、極道からスカウトされるほどの強者「西京工業の橋田」と揉めた際「香取さん、あやまりましょー、世の中には先輩より強えヤツはいくらでもいるんスよ」と懇願する。
だが、怒り狂っている橋田が見逃すはずもなく、タイマンの火蓋が切って落とされた。
まず「橋田」の右ストレートが炸裂、難なく立ち上がる「香取」
そのままチョークスラムを仕掛ける「橋田」を躱し「香取」が頭突き一閃、続けざまに左ストレート、右ストレートの2発、そしてボディへ右アッパーを打ち込んだ。
「橋田」はこの攻撃によりひざまずく、そして「おい、ガチャピン、どこにいんだよ!?オレよか強えヤツってのは!?」と言い放つ。
取り巻き連中
「バカな、こんなヤツがいたなんて」
「なんでこんなバケモノが名前売れてないんだ?」
「まさか伝説の幕開けに立ち会っちまったのか!?」
この言葉に気を良くした香取は、とどめを刺そうとパワーボムを仕掛ける。
しかし推定150kgはあろう橋田を持ち上げきれず、そのまま落下しダブルKO。
この決まりそうで決まらない絶妙なバランスこそが、この作品の肝であり、香取の名が不良界に轟かない最大の理由である。
香取センパイは失礼
©香取センパイ|6巻
この男の失礼さは、そんじょそこらの無礼者とは比較にならない。
中でも象徴的なのは「山田家の食卓」だ。
山田のお母さんが社交辞令で「家のつもりでくつろいで」と声をかけたのを真に受け、パンイチで家の中を徘徊、親父さんを待っての食卓に「まーだー!?ピザが冷えるって!!」との暴言。
しまいには喧嘩の強さ自慢をはじめ、初対面の親父さんに「オヤッさん→オッサン」呼ばわり、同じ後輩「ガチャピン」の気苦労は計り知れない。
しかし、当の山田が香取を崇拝しているため、王様気分に拍車がかかるという地獄絵図が、これまたバチクソ面白いのだ。
とにかく香取の空気の読めなさは常軌を逸しており、この回は「親の視点、後輩の視点」で二度読みしてほしいところである。
香取センパイはキレる
©香取センパイ|7巻
作中で香取がキレるシーンはほとんどない。
相手からすればふざけたまま、鬼の強さを誇るので不良のメンツはズタズタである。
そんなアホウも、真面目な友達が鉄パイプで頭を割られた時は本気でキレた。
その殺気は、まさに本物。
不良界でその身を削ってきた猛者たちも、思わず冷や汗をかくほどだ。
これもまた普段とのギャップにより、魅力極まるシーンである。
根っこが腐っていないからこそ、平時のバカさ加減を楽しめるのかもしれない。
香取センパイはモテない
©香取センパイ|7巻
香取はとにかくモテない。
顔は悪くないし、肉体美も申し分ない。
むしろ、並のマッチョマンなど寄せ付けないほどだ。
だが、何事も自分中心でなければ気がすまない性格は女性からみると「ウザっ」の一言である。
とはいえ見ている側としては、この自己中心性こそキャラクターの魅力であり、なんど腹を抱えて笑ったか分からない。
定番の熱い恋愛描写こそないが、他のヤンキー漫画とは一線を画すほど独特の描き方をしており、非常に笑える。
香取センパイは強い
©香取センパイ|8巻
人として最低の極みにいるような男だが、喧嘩の強さは化け物だ。
名の売れた不良をバッタバッタとなぎ倒していくさまは、ある種の爽快感を覚える。
それでも喧嘩の仕方があまりにも締まらないため、これまで香取は無名だった。
しかしとうとう、不良界にその名を刻む事件が起こる。
中学時代、西南区に帝国を築いたほどの男であり、作中でもっとも極悪な高校「西京工業」2年をまとめる柳 登志也との一戦だ。
2人は偶然道端で遭遇、柳の不意打ちが香取の顔面をとらえる。
タフさが売りだった男の脚を、一発でグラグラにするほど強烈な一撃だった。
さらに、アッパーをもう一発…。
それでも立ってきた香取に思わず「てめーヤクでもやってんのか!?」と本音を漏らす柳。
最後の相打ちに香取の膝が崩れ落ちる…。
タイマンでのKO負けにショックを受けるが、この男は落ち込むという感情は持ち合わせていない。
すぐにリベンジマッチを申し込む。
この勝負により、香取の名は不良界へと響き渡った。
結論:香取センパイは最高
以上、香取センパイについて軽〜く紹介した。
記事で紹介した部分はほんの一部であり、まだまだ爆笑エピソードは死ぬほどある。
未読の方はぜひ、自分の目で確かめてくれ。
また後輩「ガチャピン・山田・サダオ」や唯一の理解者「ワタル」との絡みも必見なので、本作の魅力は香取一人にあらずだ。
最近良いことないな〜
仕事がうまくいかないな〜
コロナ憂鬱だな〜
なんて人はぜひ本作を手にとって大笑いしてほしい。
- 作者:秋好賢一
- 出版社:秋田書店
- 掲載誌:
月刊少年チャンピオン
- 発売日:2002-03-31
- 完結:11巻
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